安政元年(一八五四年)創業の清酒蔵元、勇心酒造(香川県綾南町、徳山孝社長)が家業の米発酵技術を武器に化粧品・家庭用品市場で存在感を高めている。皮膚の水分保持機能の改善などの効果を持つ同社の米エキスをコーセーやベビー用品の
コンビが美容液やクリームに相次ぎ採用した。四月から自社用、OEM(相手先ブランドによる生産)向けを合わせた生産能力を一日二万個に倍増する。
「生産が追いつかずに設備増強する時間がなかった」。徳山社長はうれしい悲鳴を上げる。当初、年末年始に美容液などの充てん設備を二台追加し計四台とする計画だったが、OEM供給先の注文が一段落する来月下旬以降に着工を先送りした。商品を箱詰めする包装室も面積を倍にする。投資額は約一億円の予定だ。
勇心酒造が自社開発した「ライスパワーエキス」を供給するのは五社。コーセーが二〇〇四年に発売した化粧品が百万本を超えるヒットとなり、知名度が一気に高まった。カタログ通販の
イマージュ
でも
ライスフォース
化粧品が主力事業の一つに育ちつつある。自社の化粧品ブランド「ライース」も持ち、インターネット経由や三越の店頭で販売する。
徳山社長は東大大学院を卒業後、一九七二年に家業を継いだ。だが酒造だけではいずれ行き詰まると考え、代々受け継いだ醸造技術を新分野に応用する研究に打ち込んだ。発酵に使う酵母や乳酸菌を替えるなどでこれまでに三十六種類のエキスを開発。
使用する酵母などは「酒造を通じて人体への安全性は確認済み」(徳山社長)だ。
現在の主力エキスが「ライスパワーNo.11」。皮膚の角質層で水分を保持する成分、セラミドを増やす効果があり、〇一年には厚生労働省から医薬部外品の新規効能に承認された。皮膚表面の水分を補うだけの他の美容液と差別化する。
〇五年六月期は九カ月間の変則決算だったが、売上高は十四億円強と前の期の一年間を上回った。昨夏コンビが発売した乳児向けクリームなどの製品供給も始め、今期は二十億円を目指す。
健康志向がヒットのカギとなる食品業界でも認知度が広がっている。〇三年、敷島製パン(名古屋市)が胃の粘膜保護などに効果があるとされる「No.101」を配合したパンを発売。アサヒビールにも一時、アルコール飲料「穣三昧(みのりざんまい)」向けにエキスを供給した。
一方で清酒事業は国内消費の減退で縮小が続き、七〇年代のピーク時に年間二百四十キロリットルあった出荷量は十キロリットルに落ち込んでいる。全体の売上高の一%程度だ。「会社の根幹である酒造は廃業しない」(徳山社長)方針だが、香川県宇多津町の酒造拠点では昨年、老朽設備などを廃棄。生産体制を大幅に縮小した。
ここ数年は米エキスの販路拡大にまい進してきたが「今後は再び新エキスの研究開発に力を入れたい」と徳山社長。医薬部外品などの認可も積極的に取得し、エキスの信用力を高める考えだ。将来的には販売部門を分社化し、研究特化型企業への衣替えも視野に入れている。