水天宮とは通りを挟んで向かい側の“一等地”に昨年六月オープンしたのが「モンテール水天宮店」。ガラス張りの明るい店の一階は外出着、二階には妊婦用下着が並ぶ。水天宮のマタニティー専門店は三十歳前後の客が多いが、この店は二十代の比率が高い。妊婦用パンツが千円からと低価格が売り物だ。
モンテールを運営する
狙いは当たり、店頭での売り上げは月五百万円程度と予想を上回った。「妊婦は月齢とともに体形が変わり、カタログ誌や通販サイトだけで購入に踏み切れない人は多い。実際に試着して適切なサイズについて店員にアドバイスを受けたいというニーズは大きい」(秋山さん)。手渡したカタログ経由の売り上げも月二百万円程度にのぼる。
二〇〇五年にオープンした「ママプラス」は接客スタッフ全員が三十代以上。運営するローズマダム(東京・墨田)の溝尾力販売促進部長は「若すぎると商品説明に説得力が出ない」と理由を話す。下着は授乳のしやすさなど機能説明の巧拙で売れ行きが大きく変わるからだ。一日の来店客が百組と、通常の土日の三―五倍になる戌の日にはベテラン社員を配置する。店の売り上げは年二割程度のペースで伸びているという。
おしゃれな専門店の先駆けといわれるのが、カタログ通販のエンジェリーベ(横浜市)が〇二年八月に開いた「アンジュ」。看板商品は腹部を圧迫しないよう伸縮性の高いニットをあてがったズボン「P・パンツ」(七千二百四十五円から)。脚が長く見えるデザインが特徴だ。夫と来店した都内在住の主婦(38)は「カタログ誌で見て試着しに来た。妊娠中でもおしゃれをあきらめたくない」と話す。
水天宮のマタニティー専門店では、一人の妊婦の来店回数は二―三回といわれる。妊娠五カ月目、臨月直前、そして産後。そのなかで最も購入額が大きいのが五カ月目。お産が軽いといわれる犬にあやかって妊娠五カ月目に入った戌の日に安産祈願をする風習があり、この日には妊婦に付き添う親の財布をあてにできるからだ。
戌の日には水天宮周辺にマタニティー関連の業者が集結し、割引券や試供品交換券を配る。レモールでは「客一人当たりの購入額は一万円を超え、通常の土日の二倍以上」だ。
戌の日の“御利益”は飲食店にも及ぶ。水天宮近くのロイヤルパークホテルの「戌の日メニュー」。宴会場を使ってのランチビュッフェは大人三千百五十円(別途一〇%のサービス料)、子供二千百円(同)と安くはないが、平日で六十―七十人、休日には百―百二十人が利用する。「告知していないが、〇四年十二月の開始以来、利用客はじわじわ増えている」と担当者はほくほく顔だ。
親子丼の老舗店「玉ひで」では戌の日にランチタイムの行列が長くなる。休日と重なると二時間待ちもある。「うれしい半面、(妊婦さんを待たせることになって)心苦しい」(同店)という。
実は東京・水天宮に安産祈願する妊婦の数は「少子化の影響で横ばいないし微減傾向」(水天宮)という。にぎわいをもたらしたのは妊婦に付き添う参拝客の増加だ。「数年前までは妊婦と母、夫の二、三人だったが、最近は四、五人が普通」(水天宮)。妊婦の父、兄弟や親せきらも加わり、戌の日がイベント化してきたようだ。


